セリフのない56秒の動画を作りました。
言葉を足せなかったのではなく、足さないと決めた56秒です。
どうやって作ったのかを、うまくいかなかったところも含めて残しておきます。
なぜ、セリフを入れなかったのか
CryptoNinja×AI動画コンテスト 2026夏に、『はじめて、見上げた』という作品で参加しました。
CryptoNinjaのキャラクター”紫苑”(Shion)が、日々の鍛錬の手をふと止めて、空を見上げる。そんな一日があったかもしれないと想像して作った56秒です。
この作品には、セリフもナレーションもありません。字幕も、最後の一箇所だけです。
その理由が2つあります。
ひとつは、この作品の見どころを「表情の変化」の一点にしようと決めたこと。
硬い表情が、静かにほどける。そこに「今、心が動いた」というような言葉を乗せてしまうと、表情の役割が薄れてしまいます。音楽にも「感情を先回りして抑揚をつけないように」と設計をお願いしています。
もうひとつは、紫苑がCryptoNinjaの人気キャラクターでもあること。
セリフをつけるということは、声質も口調も一人称も、こちらで決めてしまうことになる。前回の春のコンテスト作品では自分の思い入れで偏った設定の”紫苑”になってしまったかもしれません。だから今回は、あえてセリフをつけませんでした。
そのかわり、言葉は全部「入口」に置きました。この記事や投稿文、作品タイトル、応募フォームのコメント欄。本編作品では何も語らず、外側で語ってみよう。この切り分けが、今回のいちばん大きなポイントになったと思います。
企画の芯は「空の見える面積」
今回のテーマは「そら」でした。
空を綺麗に描く(生成する)こと自体は誰もがやると思うので、空の見える面積が広がっていくことで”そら”を表現しようと決めました。
構成は以下のとおり。
・里の場面では、木々や屋根が背景となり、空がほとんど見えない
・顔のクローズアップに移ると、視線の移動とともに背景に空が入り始める
・空を見上げたところで、空が画面の大部分を占める
・表情のカットでは、空は背景に退いて、表情だけが主題になる
・里へ戻っても、木々の上に青空の背景が残っている
・最後は、空と里が一枚の絵に収まる
彼女がまだ空を見上げていないのだから、こちらからもまだ見えてはいけない。
この一行を先に決めてから、各カット割りの字コンテ、絵コンテを依頼しました。カメラを動かす指示も、この面積の推移だけは崩さないようにお願いしています。
音も同じ考え方で作りました。曲そのものに起伏を求めず、音量で作っています。空のカットは音を少し上げて、顔のカットでは下げて。表情を見せたい場所では、音のほうが引く、という形です。
この作品の要(かなめ)と、使わなかった笑顔
作品の中に一箇所、「ここが伝わらなければ企画ごと成立しない」と決めていたカットがあります。空を見上げたまま、硬い表情が静かにほどける数秒です。
ここは、にっこりの笑顔にするバージョンも生成してもらってました。
でも、不採用にしました。
笑ってしまうと、それまでずっと保ってきた硬さが、軽くなってしまう気がしたからです。出したかったのは笑顔や明るさというよりも、何かに初めて気づいた表情でした。眉のこわばりがゆるんで、細めていた目が少し開く。それ以上はやらない。
生成の指示にも「これは笑顔ではない」「照れでもない」と繰り返し書き、頬の赤みが自動で足されないように除外指定までさせました。
結果として採用したのは、AIモデル比較のために依頼したテスト用のクリップです。検証のつもりで作ったものが、いちばん良かった。こういうことがあるので、テスト用の出力も捨てないでおくのは大事だなと思いました。
実際の手順と、ツールの役割分担
作り方は、ざっくりこの順番です。
1. 脚本と字コンテ — Claude Code
2. 絵コンテ・キーフレーム(静止画) — ChatGPT Images 2.0
3. キーフレームを起点に動画生成 — Seedance 2.0〜2.5
4. 楽曲 — Suno v5.5
5. 編集・音・字幕・クレジット — DaVinci Resolve
ポイントは、動画をいきなり作らないことでした。
先にキャラクターの設定シート(三面図)を作り、それを共通の参照としてカットごとのキーフレームを生成します。この静止画の段階で、装束の色・襟・リボンの位置といった「毎回崩れるところ」を全部チェックさせています。動画になってから手直しするのは困難なので。
そのうえで、各キーフレームを開始の絵として動画を生成しました。ただし途中で気づいたのですが、キーフレームは「開始フレーム」ではなく「目標イメージ」として扱ったほうが安全でした。11枚を別々に動画生成しているので、隣り合うカットのカメラ位置が微妙にずれたりします。分割したカットの2本目以降は、キーフレームではなく前のカットの最終フレームを開始の絵に使う。これで繋ぎ目の段差がなくなりました。
音楽は、映像を1カットも待たずに脚本段階で生成しました。曲が先にあると、編集で映像を音に合わせられます。ここは前回いちばん苦労したところだったので、順番を入れ替えた形です。
最終的な完成動画は、56.896秒 / 1920×1080 / 24fps。音は Integrated -14.5 LUFS、True Peak -1.0 dBFS に収めています。
また、今回はAIエージェントによる組織化で、AI製作スタジオを想定したAIたちの役割分担を明確にし、各シーンのプロンプト生成 → 画像生成発注 → 納品検品をAIエージェント側で自動化して時短できています。
うまくいかなかったこと
ここまで設計どおり進んだようには書いてますが、実際はけっこう転んでいます。
① 本番クリップの中で、勝手にカットが割れていた
いちばん大事な表情のカットの、最後の0.33秒だけ、別アングルの切り返しが混ざっていました。指示には「カメラは固定」「表情だけが変化する」と追記していたのですが。
原因は、開始と終了の2枚を指定して生成したことでした。この2枚は別々に作られたものだったのでカメラ位置が違っていて、AIモデルは表情の変化を生成したあと、終点の構図へ繋ぐ手段がなくて最後のカットに飛んだようです。
これ自体は、動画生成された時点で気づいていました。ただそのときは「編集で切ればいい」くらいの認識で、AIに任せる生成動画の検品としては重要視していませんでした。実際そのように編集で対処してます。
引っかかっているのは別のところです。表情も衣装も色も毎回検品チェックさせていたのに、「そもそもカットが割れていないか」という観点が、検品のリストには無かった。つまり見えてはいたけれど、ストーリーボードからのチェックとして拾えたのではなく、たまたま目に入っただけでした。(AIに任せる部分の)前提は、疑う対象として書き出さない限り検収されない。自分の目に入るかどうかでは、次に同じ間違いがあったときに拾えるとは限りません。
結果的に末尾の0.33秒を編集で切り捨てて使う、でした。カット自体の動画を作り直さない。同じテイクがもう一度生成される保証がないからです。
② 次のカットの表情が、前のカットより硬かった
里へ戻るカットのキーフレームを見たら、表情がまだ硬いままでした。これをそのまま使うと、せっかくほどけた顔の表情が元に戻ってしまいます。作り直すときは、直前のカットの最終フレームを参照画像とするよう指示しました。「この顔の表情の続きから」と発注指示書にプロンプトを記載させる感じです。
③ 雲の流れる向きが、カットごとにバラバラだった
見上げるカットでは右へ、表情のカットでは左へ。並べて初めて分かりました。
これは直していません。反転すればポニーテールが逆側に来て設定違反になるし、作り直せば①と同じリスクを負う。締切も近い。判断としては「そのまま出す」でした。次に作るときは、風向きを全カット共通の仕様として最初の発注に書いておくしかない、というのが結論です。事後には直せない種類の問題でした。
「壊れたら終わり」を、二度とやらないために
前回のコンテストのとき、編集ソフトDaVinci Resolveのプロジェクトファイルが環境の移行で壊れて、字幕やタイトルのタイムライン設定を丸ごと失いました。動画そのものは残っていたので公開はできたのですが・・・
なので今回は、編集を始める前にバックアップ設計を見直しました。
・タイムラインを、テキストの表にして残す。 何秒から何秒に何が映って、どの音が鳴って、素材はどのファイルか。ストーリーボードと合わせてログ保存。
壊れて困るのは映像ではなく設定なので、テキストとしても保存することが必須でした。
・プロジェクトの書き出しファイルをバージョン管理に載せる。素材そのものは重いので含めず、設定ファイルだけを履歴に残す。
・素材は外付けUSBへミラーする。素材のクラウド回線アップロードは重く、外付けNASはメンテナンス中だったので、ひとまず代替USBを常設しバックアップ。
正直に書いておくと、これでも穴がありました。応募を終えたあとに点検したら、「節目ごとに書き出す」と決めていたプロジェクトファイルが、一度も書き出されていませんでした。ルールは作ったのに、AIエージェントがプロジェクト管理上実行していない。気づいたその日のうちに指示して、バックアップまで通しました。
決めただけでは守られない。 自動化を指示したつもりでも、実行されたかどうかは別に確かめないといけない。ここは順次改善していきます。
おわりに
セリフのない静かな作品は、たぶん華やかな応募作品の中では少数派。かわりに、言葉はこの記事と投稿文に置いておきます。
Xのポストはこちら。
同じようにAIで動画を作ってみたい方に、どこかひとつでも役に立つところがあれば嬉しいです。長文お付き合いありがとうございました。
※この作品はAI生成を許可された CryptoNinja の二次創作です。


台詞は˚。⋆
その字⋆。✧˚
内宿る♡⋆.
🫶
記事を拝見してから改めて作品を見ると、
より味わい深く感じますね。
セリフなしで表現するという挑戦も、素敵です!